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横浜地方裁判所 昭和33年(わ)1589号 判決

被告人 少年O(昭一四・四・二七生)

主文

被告人を懲役五年以上一〇年以下に処する。

未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

押収にかかる登山用ナイフ一挺(昭和三三年地領第六六二号の三)、同サツク一箇(同号の四)は、これを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、父R、母S子の長男として生れ、中学、高校を順調に卒えて、昭和三三年四月○○学院大学に入学し工学部機械科に在籍しているものであるが、幼な馴染である隣家の横浜市○区○○町○丁目○○番地Tの養女U子に対し、昭和三二年の夏頃からほのかに好意を抱くようになり、同年九月頃には、同女に対する感情を記載した自己の日記帳を見せ同女に感想を書きこんで返却してもらつたことなどもあつて、その後他に女友達もできたりしたが、依然右U子に対する愛着の情を持ち続けていたものであるところ、偶々、昭和三三年九月九日午前一〇時半過頃、ロマンローランの小説を読了し作中の少年と少女の純愛に共感を憶え、その少年を我身と引き較べながら、昭和三二年九月頃の自己の日記を読みかえすうち、右U子が同女の日記を見せてくれると言つたことを思い出し同女の自己に対する本心を知りたく思い、これまで見せてもらつたことのない同女の日記をひそかに見てみたい気持になつた折柄、隣家の東方で、表木戸から人の出てゆく物音が聞え、更に同家に電話がかかつても応対するものがなかつたので、被告人は同家に一人で留守居をしているはずのY(当時四五年)も不在であるものと推測し、なお念のため自宅からY方へ電話をかけてみたが、これにも応対がなかつたので、Y方は家人全員不在中であると思い込み、この機会に右U子の日記をひそかに見ようと決意し、直ちにサツク入り刃渡約一五糎の登山用ナイフ(昭和三三年地領第六六二号の四及び三)を所持してY方へ赴き、同家勝手口から台所へ上り奥四畳半の間を見ると、その部屋に前記Yが臥床していることに気づいたが、右U子の日記を見たい気持を抑止することができず、隣室六畳間の同女の部屋まで行きその時呼鈴の鳴つた電話に前記Yが応対する気配がないので同女が熟睡しているものと考え、右U子の部屋に入り、同女の机の上及びその抽斗などを捜したが、日記帳を発見することができなかつたので、同女の下着に触れることによつて、同女に対する愛着の情を満したい気持になり、右六畳間の箪笥をあけて同女の下着類を捜していると、隣室四畳半の間で人の動く気配を感じたので慌てて右六畳間から右四畳半の間の前の廊下に出るや、既に右廊下には前記Yが立つていて同女に発見せられたので、被告人は突嗟に所携の前記登山用ナイフを右手で擬して、同女に一、二歩近づくと、同女から「お金ですか」と問われたので「違います」と答えたが、驚愕して右四畳半内に後ずさりした同女が、出窓をあけて「Vさん、Zちやんが刺したんですよ。」と叫び声をあげるに及び被告人は同女をこのままに放置して逃走すれば、自己が同家に無断に入つて右U子の日記、下着類を捜した行動が発覚すること必至であると考え、ここに同女を殺害する外ないと決意し、同日午前一一時一五分頃、同所において、同女の左背部を前記登山用ナイフで突き刺し同女をして心臓刺創による失血のため即死せしめ、もつて殺害の目的を遂げたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第一九九条に該当するので所定刑期中、有期懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内において量刑処断すべきところ、被告人は少年法第二条第一項の少年であるから、同法第五二条第一項、第二項に従い被告人を五年以上一〇年以下の懲役に処し、刑法第二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入し押収の主文掲記の登山用ナイフ一挺(昭和三三年地領第六六二号の三)は本件犯行に供した物、同サツク(前同号の四)は右ナイフの従物と認められ、いずれも被告人以外の者に属さないから、刑法第一九条第一項第二号第二項により、これを没収する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田作穂 大塚淳 松野嘉貞)

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